AIによるエコシステムと、その外側の領域というのは、社会の格差拡大にも似て、まったく別の生態系としてどんどん離れていってしまうんじゃないかな。そのとき、僕らはどちらに暮らすのか。
色んな仕掛けが働いて所得格差が超富裕層を生み、それが新時代の貴族=シン・貴族という階級を生み出す。すると、かつて自動車の出現で絶滅した馬具職人を復活させて自身のお抱えにするとか、そんな動きがシン・貴族に現れてくるとか、既に来ているとか?
AIで情報の複製がめちゃくちゃ低コストになり、けれどもそこで情報の汚染とかは避けられず、でも僕ら民草は、まあ、いいや、便利だし、と使い続けるだろう。怪しい物質が数千種ふくまれているとしても、塩素殺菌した水道水を毎日飲むように。だって、仕掛けがわからなくてもラクに過ごせるから。とりあえず、いまは。
でも、シン・貴族は自分の領地に井戸を掘り、何千年、何万年かけて濾過された健康的できれいな水を飲む。だって、そっちのほうが絶対カラダにいいし、そもそも井戸に十分な水がたまる領地を持っているし、そこに深い井戸を掘るお金ももっているから。そして、なにより、彼ら自身がその仕組みを熟知している。仕組み、仕掛け、使い方について。
AIが作ったまがい物かもしれないけど、安くて取り敢えず毎日の生活に足りるもので僕たちは満足しなきゃいけない。お金も時間も権力もないから。
けど、シン・貴族は本物を潤沢に、なんの気兼ねもなく使える。欲しいものは全て本物をそろえられるだけの資力があるし、そもそも本物の意味を知り、本物を見抜く力も能力も持っている。そして、そんな状況をリソースにして、新しい水を作り出して安く売るんだ。それも大量に。
そうやって僕らと彼らの間はどんどん広がる。資力云々よりもマインドセットというか、見ている世界がまるっきり違うという意識の格差が広がる。
進化するAIは意識の格差を広げる加速装置となるだろう。そんななか、僕らが毎日の暮らしで少しでもマシに生きるためには、いかに面倒くさがらないか、面倒くさくても手を抜かないか、というのがキモになるんじゃないかな。
たとえば、コンビニ弁当で済ませるんじゃなくて、もとの形がわかる材料を使って自分で晩飯を作ってみるとか、そういうこと。たぶんこれからは、自分の頭を使って手を動かせることが貴重になるだろう。シン・貴族には成れなくても、ちょっとした職人には成れそうじゃん?