tacassi noob!

夕食の食器を洗いながら思った。ヒーローは、些末なことで頭を悩まさない。

明日の晩ご飯の献立とか、ホームセンターで買わねばならない水道パッキンのサイズを気にすることもないし、税務署や区役所や銀行に行く必要もない。季節の切手を買い求めるために、郵便局の窓口に並ぶ必要もない。

敵と戦っていないときでも、敵を倒すことだけを考え続ければいい。新しい必殺技とか、秘密兵器とか、今週のビックリドッキリメカとか。ときどき相棒が無体な文句を言ったりするだろうけど、そんなもんはちょっとした味付けの変更みたいなもので、怪獣討伐の本編には殆ど影響しない。

私たち凡人は、毎日のレシートの金額の8%を気にし、きょうの昼飯はどうしようかと給料日までの日数を指折り数えねばならない。たとえ君が地球を救うだけの知恵と勇気を持ちあわせていたとしても、それとこれとは別の話で、些末な、本当にくだらないことに煩わされる。冷ご飯が1パック残ってるから、今夜は2合炊こう、とか。

天才とかヒーローというのは周りの人間に迷惑をかけ、本業以外の全てを他人の手を煩わせて済ませてしまう厚顔無恥さが必要なんだろう。そのおかげで凡百の大衆が、結果として総体的にハッピーになるわけだ。こうして再び地球に平和が訪れました。本日、電話を再発明します。これです。めでたしめでたし。

とすれば、天才とかヒーローから離れたところに隠れてフリーライダーを気取るのが正解なんじゃないだろうか。時流や流行に身を任せて、気をつけるべきは傾向と対策。わかり切った正解に沿って答え合わせができれば上出来。自分の言葉で証明ができればベストだけど、必須ではない。SNSのネタにはなるだろうけど。

成果を上げるために努力できるやつというのは、実は本編以外のところで環境に甚大に依存しているぶん、罪深いのかもしれない。その罪を、私たちは一人で背負えるだろうか。そこらへんが、ヒーローの偉大さ所以なんだろう。セロトニントランスポーター遺伝子LL型がそんな偉大さを生むのか。

子どもたちは自分の感覚器官に入ってくる刺激だけで手一杯なぶんだけ、そういうところが無頓着に済ませられる。ヒーローに変身しやすい。オトナになると、どうしても自分が周りに及ぼしてしまう影響を気にすることになるから、必殺技なんて早々簡単に飛ばせなくなる。
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